アルスサーガ

2004年9月3日 芸能
 アルスは村の長老の話を思い出した。
「アルスよ、この村に伝わる能力を無闇やらたらに使ってはならんぞ。もしいたずらに限度を超えた使い方をすれば、それは自分に返ってくると思いなさい。さあ、旅立ちの準備が整ったらこの村を後にするがよいぞ……」

 故郷の村を後にしておよそ15日。アルスはあての無い旅を続けていた。窓の外を眺めていると、アナウンスが鳴り響いた。
「次はー池袋ー池袋です」
「もう池袋か、やっぱり新大久保からだと早いな」
アルスはポケットに入れていた定期券を取り出し、改札をスムーズに通り抜けられるための準備をした。電車がゆっくりと動きを止め、池袋駅に停車する。池袋ではいつもながら多くの乗客が電車を降りる。これは山手線を使う人なら、いや、関東圏に暮らす人ならば、もはや常識の範疇なのだが、相変わらず我関せずとばかりにドア前で動かない輩がいる。当然、降車する人々はこの輩が妨げになり、一連の行動が滞ってしまう。乗客たちは皆、口には出さないが、この邪魔者に対して少しの怒りを覚えている。
この多少の怒りの集まりが、一気にアルスの脳内に飛び込む。アルスの拳から無数の針が飛び出し、剣山さながらの形状に変化する。
その拳を鞭のようにスナップを効かせ、邪魔者の右肩に叩きつけた。
ばちんと音がして、邪魔者の肩はまさに破裂した。アルスの脳内から怒りが消え、車内からも騒音がなくなった。邪魔者は不思議そうに自分の右肩があった部分を凝視している。邪魔者のヘッドフォンから漏れるドラムパターンだけがリズムを刻んでいた。
「良かった、まだ生きてるみたいだ。もし顔面に当たってたら自分の命も危なかったかも。ちゃんとコントロールできるようにならなきゃ」
アルスは血で汚れた右手を隠し、足を速めて池袋駅の階段を降りていった。

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